令和6年4月8日、大正製薬より日本初の「内臓脂肪減少薬 アライ」が発売されました。この薬は年齢、腹囲などいくつかの条件は存在しますが、基本的には医師の処方箋なしに薬局で購入できる薬として大変注目されています。「アライ」の主成分はオルリスタットと呼ばれる物質で、大正製薬のホームページによれば、その作用は以下の通り説明されています。
「食事中に含まれる脂肪は膵臓から分泌される脂肪分解酵素(リパーゼ)によって脂肪酸とグリセロールに加水分解され、消化管(腸)から吸収されます。アライの有効成分であるオルリスタットは消化管管腔内で脂肪分解酵素(リパーゼ)の活性を阻害し、食事由来の脂肪の吸収を抑制、食事由来の脂肪のうち約25%を便として排泄することが期待できます。」
つまり、オルリスタットの作用は脂肪の分解を妨げる事で腸から吸収出来なくし、便と一緒に体外に排出してしまうと言う事です。脂肪ってカロリーが有りますからね・・・。
ここまでは私の専門とは全く関係が無いのですが、一つ大きな問題があります。この「内臓脂肪減少薬 アライ」には次のような注意事項がある事です。
次の人は、慎重に服用する必要があります。服用前に医師又は薬剤師に相談してください。
次の医薬品を服用している人。
アミオダロン製剤(心臓の薬)、レボチロキシン(甲状腺障害治療薬)、抗てんかん薬、抗うつ薬、抗精神病薬(リチウム製剤を含む)、ベンゾジアゼピン系薬剤(抗不安薬、睡眠薬)、経口避妊薬
(本剤との併用により、現在服用している薬の効果に影響が出るおそれがあります)
抗てんかん薬、抗うつ薬、抗精神病薬(リチウム製剤を含む)、ベンゾジアゼピン系薬剤(抗不安薬、睡眠薬)って、私の専門にもろ被りじゃないですか!しかも、「本剤との併用により、現在服用している薬の効果に影響が出るおそれがあります」って曖昧な!どんな影響があるんだ!?もっと詳しく書いてくれ!
抗てんかん薬、抗うつ薬、抗精神病薬(リチウム製剤を含む)、ベンゾジアゼピン系薬剤(抗不安薬、睡眠薬)など中枢神経に作用する薬を総称して向精神薬と呼びますが、この向精神薬は脂溶性と言って油に溶けやすい性質を持ったものが多数派です。
脳には血液脳関門と呼ばれる一種のバリアが存在し、血液などを介して病原体や有害物質が脳に侵入するのを防いでいます。細胞膜もこのバリア機能に一役かっていますが、細胞膜はリン脂質と呼ばれる油の一種で出来ています。水と油は溶け合いませんが、油と油は良く溶け合うため脂溶性である向精神薬は細胞膜に溶け込み、そして細胞膜の内側、つまり脳内へと通り抜けて行きます。この性質を利用して、向精神薬は血液脳関門を通り抜け脳内に入り込みやすくなる様に工夫されています。
しかし、「内臓脂肪減少薬 アライ」は油の吸収を抑制してしまうため、油に溶けやすい性質を持った向精神薬は腸内の脂肪と一緒に体外に排出されてしまい、その効果が弱まるのでは無いかと想像しています。詳細は分かり次第このコラムに追記しようと思いますので、もうしばらくお待ち下さい。