患者さんより「薬はお腹が空いている時に飲んでも大丈夫ですか?」とか「この薬はいつ飲んだら良いんですか?」と質問される事があります。皆さんが手にする薬袋には必ず「食後」、「就寝前」などいつ薬を飲むか記載されていると思いますので、この場合はあまり迷わないと思います。しかし、「不安時」、「動悸時」、「不眠時」としか記載されていない薬もあり、空腹時に内服しても良いものか判断に迷う事がありますよね。そもそも食後に内服する理由は、食べ物と一緒の方が吸収が良くなったり、空腹時に内服すると胃が荒れる事があるからです。
さて、私の専門は精神科ですので、この先は向精神薬(抗うつ薬、抗不安薬、睡眠薬など中枢神経に作用し、生物の精神活動を調整する薬の総称)に付いてのみ説明をしていきます。
幸い、空腹時に内服すると胃が荒れてしまう向精神薬はありませんので、基本的に空腹時に内服しても大きな問題はありません。ただし、空腹時に内服する場合に注意が必要な薬が2種類あります。
一つ目ははSSRIやSNRIと呼ばれる抗うつ薬です。この抗うつ薬はセロトニンと言う神経伝達物質の調整を行う事でうつ病を治療する薬なのですが、セロトニンと言う物質は脳内以外、胃腸にも存在します。胃腸に存在するセロトニンまで刺激してしまうと、胃腸の活動が活発になり過ぎたり、迷走神経を介して延髄の嘔吐中枢を刺激してしまうために吐き気が出現する事があります。これは決して胃が荒れるために吐き気が出現している訳では無いのですが、空腹時に内服すると余計この吐き気が強まってしまう事があるため、食後に内服した方が良いとされています。
二つ目はルラシドン(商品名:ラツーダ)と言う薬です。この薬も食事の影響を受けやすく、空腹に内服すると食後に内服した時の半分程度しか吸収されません。このため、ルラシドンは基本的に食後に内服しなければならないとされています。
いつも食後にルラシドンを内服していた患者さんが、ある時から空腹時に変更してしまうと吸収が低下し病気が再発するかもしれません。その一方、いつも空腹時に内服していた患者さんが、ある時から食後に変更すると吸収が良くなり過ぎ、副作用のリスクが高まる可能性があります。つまり、食後でも空腹時でもどちらでも良いとはならず注意が必要です。
一方、クアゼパム(商品名:ドラール)と言う睡眠薬があるのですが、この薬は食後に内服すると空腹時に内服した時の2~3倍吸収が高まるため、食後に内服する事が禁止されています。これは非常に珍しい注意事項になりますので、クアゼパムは必ず空腹時に内服する様にして下さい。