患者さんより「私の病名って何ですか?」と聞かれる事があります。
自分がどんな病気にかかっているのか主治医に質問するのは当然ですよね。でもこの質問に即答するのは意外と難しいのです。「医師免許証持ってて、そんな質問にも答えられないのか!しっかり勉強しろ!」とお叱りを受けてしまいそうですが、残念ながらこの質問に答えるのは難しいのです。そこで、その理由(言い訳?)を少し説明させて下さい。
第一に長期間患者さんの診察をしなければ診断出来ない病気がある点です。例えば、「持続性気分障害」と言う病気があるのですが、この病気は2年以上うつ症状が続いている事が診断のための条件となります。ですから初めて病院を受診、その後2年間しっかりと状態を観察、それでもうつ症状が治らなかった時にようやくこの診断名を付ける事が出来ます。もちろん、病院を受診する2年以上前からうつ症状が続いていたと言う場合もあるでしょうが、それは患者さんの自己申告による症状であって、本当にうつ症状が続いていたのか主治医には確認出来ません。従って、初診の段階で患者さんの訴えのみで持続性気分障害と言う診断名を付ける医師は少ないと思います。
第二に精神疾患の初発時の症状は良く似ていると言う点です。「それぞれが独立した全く違う病気なんだから、そんなはず無いだろ!」とこれもお叱りを受けそうですが、実際どの病気であるか区別をするのは難しいのです。それは病気の初発時にはその病気に特徴的な症状がまだ目立たず、「気分が晴れない」、「やる気が出ない」、「人に会いたくない」などうつ病と似た症状を呈する事が多い影響だと感じます。後になって幻聴が出現した、物忘れが目立ってきたなどその病気に特徴的な症状が現れ、その時になって初めて統合失調症、認知症などの診断に至る場合は珍しくありません。
第三に数値化、可視化出来ないと言う点です。体の病気は血液検査や尿検査など数値として異常を見つける事が出来たり、レントゲン検査、CT検査、内視鏡検査など目に見える異常として見つける事が出来ます。しかし、精神疾患は血液検査、レントゲン検査、CT検査・・・・。どんな検査を行った所で全く病名を決める決定打にはなりません。医者の経験と勘だけが全てなのです。まるで頭にハチマキでも巻いた職人さんみたいですよね。
このため、精神科・心療内科では「状態像診断」と言う診断名をよく使うのです。状態像診断?「何のこっちゃ」ですよね。それでは次回以降、この「状態像診断」の説明をさせて頂きますのでお楽しみに。
私の病名って何ですか?
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