夜、自分で気が付かないうちに何かを食べている事があると患者さんより相談を受ける事が時々あります。一人暮らしの患者さんの場合、朝起きてみると、昨日の夜しっかり後片づけをしてから寝たはずであるのに、何やら食事をした形跡がある。「えっ!誰が食べたの?」と全く身に覚えがありません。また、家族と同居している患者さんの場合、家族から「昨日の夜、何か食べてたみたいだけど、お腹でも空いてたの?」と聞かれますが、「えっ!そんな事あったの?」とこれまた全く身に覚えがありません。
この様な患者さんで共通している事が一つあります。それは睡眠薬を飲んでいる事です。特にベンゾジアゼピン系と呼ばれる睡眠薬で、更に作用時間が短い睡眠薬を内服している患者さんで時折見られる副作用です。これは「前向性健忘」と呼ばれる現象で、睡眠薬を内服した後の記憶が曖昧になってしまいます。これだけ聞くと「睡眠薬はなんて恐ろしい薬だ!」と言う事になってしまうのですが、ちょっと待って下さい。単純にそうとも言い切れないのです。この「前向性健忘」が出現しやすい患者さんは多くの場合、睡眠薬の内服方法を間違っているのです。
睡眠薬の理想的な内服方法は少し眠気が差してきた時に内服し、その後は直ぐに布団に入って眠る体制を取る事です。しかし、「前向性健忘」が出現しやすい患者さんは21時や22時など自分で決めた早めの時間帯に睡眠薬を内服し、眠気が出るまでテレビを観たり、スマホをいじったりして、眠くなったら布団に入ると言った行動を取っています。この様な内服方法をすると寝付くまでの間に健忘症状が出現するリスクが高くなってしまうと考えられます。従って、「睡眠薬は時間を決めて内服するのでは無く、少し眠気が出た時に内服し、直ぐに就寝する」と言った内服方法を必ず守って下さい。これだけでも「前向性健忘」は相当予防する事が出来ます。皆さん、睡眠薬は正しく内服して下さい。